洞結節から起こる興奮は、すべて心室に伝導されますが、そのとき伝導の遅れや完全な伝導の途絶された状態を、房室ブロックといいます。
心電図からみると、心房の電気的興奮であるP波と心室の電気的興奮であるQRS波の関係で、P波とQRS波の間が伸びるのを「第Ⅰ度の房室ブロック」とよびます。
それがときどき途絶するのを「第Ⅱ度の房室ブロック」、完全に途絶するのを「完全房室ブロック」とよんでいます。
第Ⅱ度房室ブロックのなかで、房室間の伝導時間が徐々に延長し、ついに完全に途絶するものを「ウェンケバッハ型房室ブロック」といいます。房室間の伝導時間は変わらないのに、突然、伝導が途絶されるものを「モビッツ2型房室ブロック」とよびます。この2つのタイプの房室ブロックは区別して考えなければなりません。
その理由は、房室ブロックはどこのブロックで起こっているのかという、その発生部位が治療にとって非常に大事だからです。
これらの発生部位が下に行けば行くほど、失神発作などのアダムス・ストークス症候群(書籍53p)の症状が出やすいという性質をもっているのです。それはなぜでしょうか。簡単に説明しておきます。
興奮を作って伝える役割を果たす「特殊刺激伝導系」(書籍14p)というものがあることは、すでにお話ししました。いちばん興奮の数が多くて確実なのは洞結節で、脈としては1分間に40~60回。もっと下部のプルキンエ線維から出るものは、1分間に20~40回。つまり、下へ行けば行くほど頻度は少なく、かつ安定性がなくなるということです。
そうすると、房室結節内ブロックというのは、房室結節のなかでブロックが起きても、リリーフピッチャーが出てくるために、40~60回の興奮は確保され、止まってしまうことはあまりありません。
ところがモビッツ2型というのは、ヒス束より下で起こることが多いために、下のリリーフピッチャーが出るのも遅く、出方も不安定で、アダムス・ストークス症候群の失神発作を起こしやすくなります。
このように房室ブロックでは、心電図のⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の診断と、房室ブロックの発生部位がどこなのかの確定が必要です。これは、その後、ペースメーカーを入れるかどうかの判断の材料として重要になってきます。
第Ⅰ度房室ブロックやウェンケバッハ型第Ⅱ度房室ブロックでは、ほとんど症状はありません。
しかし、モビッツ2型第Ⅱ度房室ブロックや第Ⅲ度房室ブロックでは、徐脈の程度が強く、そのために送り出される血液の量が極端に少なくなります。そうなると、息切れや全身倦怠感を感じたり、心不全を起こしたりします。また、リリーフピッチャーが出ないと心室停止となり、失神発作などのアダムス・ストークス症候群を起こします。この場合、突然死もありえます。
第Ⅰ度、第Ⅱ度の房室ブロックで、まったく症状のない場合は、原則として治療は必要ありません。薬としては、房室結節のブロックの場合、アトロピンという迷走神経遮断薬でも房室結節の通りはかなりよくなります。
ヒス束より下部のブロックの場合は、迷走神経遮断薬では効果がなく、カテコラミンを使用します。しかし、薬は安定性の面で限界があります。モビッツ2型第Ⅱ度房室ブロックや第Ⅲ度房室ブロックの場合は心室静止となり、めまいや失神発作などのアダムス・ストークス症候群や心不全を起こすこともあります。また、そこまでいかなくとも、高度の徐脈のため、日頃からだるい、疲れやすいなどの症状が出ます。そうした、徐脈による症状がある場合は、ペースメーカーの適用となります。先天性完全房室ブロックは、房室結節内のブロックのことが多く、症状のない場合にはペースメーカーなしで経過をみることができます。
最近では、心房と心室を順次にペーシングできるペースメーカーや、運動時にペースメーカーからの刺激頻度が増加するものも開発されており、失神発作などのアダムス・ストークス症候群を予防するだけでなく、運動能力の向上などに大きな効果を発揮しています。
第Ⅰ度房室ブロックの心電図では、P波とQRS波の伝導が遅い状態で、洞調律の波形をしています。
ウェンケバッハ型第Ⅱ度房室ブロックでは、PQ時間が徐々に伸びていき、最後にはQRS波がなくなり、P波だけとなります。モビッツ2型第Ⅱ度房室ブロックでは、PQ時間は一定で、QRS波が突然消え、P波だけが残ります。
第Ⅲ度房室ブロックでは、心房からの興奮が心室へまったく伝わらない状態のため、心房と心室がまったく別個のリズムを形成します。