ペースメーカーとは心臓を動かす命令(電気刺激)を出す本体(大きさはライターくらいで、重さは20~30グラム)と、その命令を右心房、右心室の筋肉に伝えるカテーテルからできています。
抗不整脈薬が頻脈性不整脈に使用されるのに対して、ペースメーカー療法は、洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈に用いられますが、最近では、重症な心不全に対する治療としても応用されています。
ペースメーカーは、1950年代末から1960年代にかけて、心室静止を予防することを目的として使われはじめ、1970年代には徐脈性不整脈の中心的治療法として普及しました。1980年代には、より生理的な状態に近いペースメーカーが開発され、その普及はピークを迎えました。
不整脈の手術は、WPW症候群(書籍165p)や心室頻拍(書籍120p)の根治療法として行われます。ただ、開胸、開心の手術ですので患者さんの負担は大きく、また危険性も高いことはいうまでもありません。
日本では1970年代に、先に述べたWPW症候群や心室頻拍に対して胸を開き、心臓を開き、その場所を切除したり凍結したりする手術が行われました。
しかし、1990年代に入ると、不整脈の手術は急速に減少します。それは患者に大きな負担をかけ、危険をともなう手術をしなくても、次に述べるカテーテルアブレーションにより根治できるようになったからです。
一方、手術が必要な心臓病(とくに弁腹症など)に合併した心房細動(参照ページ)に対しては、心臓手術と同時に不整脈手術(メイズ手術)が行われています。
不整脈の根治療法として、手術治療法から主役の座をうばったカテーテルアブレーションについて、かんたんに説明しておきましょう。
カテーテルアブレーションとは、大腿動静脈や上腕静脈を介して、カテーテルを心房ないし心室の目的とする場所に入れ、カテーテルの先端についている電極から背中に置いた対極板に高周波を流し、不整脈の発生源を焼き切る方法です。
カテーテルアブレーションは、1982年にアメリカで初めて臨床的に行われました。当時は電気ショックの機械をそのまま使い、直流通電を用いました。しかし、直流通電は心臓に穴があいたり(穿孔)、心室細動などの致死的な合併症があり、成功率も低いものでした。そのため研究が重ねられ、1990年にラージチップカテーテルという特殊なカテーテルが開発され、直流通電ではなく、高周波通電を使えるようになりました。
その結果、1991年以降のカテーテルアブレーションは、安全性が飛躍的に高まり、成功率も向上しました。ちなみに、WPW症候群に関しては、成功率が95%を超える好成績を上げています。
また、2000年以降、三次元マッピングシステムという不整脈が起こっている場所を画像で同定できる方法が進歩して、成績はさらに向上しています。
こうして、カテーテルアブレーションは手術療法に変わって現在、世界中に普及しています。
植込み型除細動器は、手術療法やカテーテルアブレーションのように、心室細動や心室頻拍を根治するものでも予防するものでもありません。しかし、心室細動による突然死を予防する治療法としてはもっとも強力なもので、最終的な治療法といえます。
かんたんに説明してみましょう。
突然死を引き起こす心室細動が起こった場合、これを止めるには電気的ショックをかける電気的除細動しかありません。この電気的除細動器を体のなかに埋め込んだものが植え込み型除細動器と考えればよろしいと思います。
突然、心室細動が起こったとき、植え込み型除細動器が直ちにそれを感知し、電気ショックをかけるわけです。臨床で初めて使われたのは1980年でしたが、その後、急速に普及し、欧米では新しく埋め込む患者さんが年間で4万5000人にも達しています。
わが国で保険適用が認められたのは1996年で、これまでに植え込み型除細動器を入れた患者は総数でもまだ500人くらいしかいません。
植え込み型除細動器の初期のものは重量が400グラムもあり、開腹手術をして機械を埋め込まなければならなかったのですが、いまでは重量も200グラム以下になり、ペースメーカーと同じように、局部麻酔で前胸部の皮下にかんたんに埋め込むことができるようになりました。この植え込み型除細動器も、今後急速に普及することが予測されます。
このカテーテルアブレーションは、WPW症候群以外にも、発作性上室頻拍、心房粗動、心房頻拍、一部の心室頻拍などに行われています。合併症や副作用の多かった直流通電から、高周波通電に変わり、安全性も成功率も飛躍的に向上し、手術療法に替わる新しい根治療法として急速に広がっています。近年では心房粗動や心筋梗塞後、心筋症に合併した心室頻拍の一部にも行われるようになってきました。
今後、カテーテルアブレーションがさらに普及することにより、前述した不整脈で苦しんでいた多くの患者さんにとって、薬も手術もなく、不整脈の発作の不安や恐怖からも完全に解放され、第二の人生を謳歌する日がくることも期待できます。しかし、カテーテルアブレーションを受ける際には、合併症等について十分な説明を受けることが大切です。