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第三章 不整脈の治療目的 薬物療法の移り変わり

不整脈の治療方法は、現在でも薬物療法が主流です。

不整脈の治療の主流といえば、いまでも薬物療法です。薬物療法とは、抗不整脈薬を使用して不整脈を取り除くという治療法です。

1950年代は「キニジン」という薬が、不整脈の中心的な薬として使用されてきました。その後、不整脈の研究も大きく進み、新しい抗不整脈薬が次々に開発されました。そして、1970年には英国のボーン・ウィリアムスによって、「ボーン・ウィリアムス分類」という抗不整脈薬の分類法が確立されました。

ボーン・ウィリアムス分類

では「ボーン・ウィリアムス分類」をかんたんに説明しましょう。この分類表は、抗不整脈薬を4つの群に分けています。次の第4章で述べる、それぞれの不整脈についての解説にも出てきますので、いちおう理解しておいてください。

【Ⅰ群薬】
前述したキニジンをはじめ、現在、日本で多く使用されているピルシカイニドやシベンゾリン、プロパフェノン、ジソピラミド、フレカイニドなどⅠ群にふくまれています。期外収縮や頻拍発作を抑える狭い意味での抗不整脈薬は、このⅠ群薬を指しています。たくさんの薬剤があり、それぞれの特徴によってa、b、cの3種類に分けられています。

【Ⅱ群薬】
ベータ―遮断薬とよばれています。これは交感神経の興奮によって、脈拍が速くなるのを抑えたり、期外収縮や頻拍発作が起こるのを予防したりします。

【Ⅲ群薬】
心室細動を予防する薬としては、Ⅰ群薬よりも強力ですが、副作用も強く、日本で市販されているのはアミオダロンとソタロール、ニフェカラント(静注薬のみ)の3薬剤しかありません。

【Ⅳ群薬】
房室結節などを抑制して、心拍が速くなるのを抑えたり、頻拍発作を予防したりします。

参考までに、表の中にⅠ群からⅣ群のそれぞれの薬剤名をあげておきますので、みなさんが病院で不整脈の薬を処方してもらったときは、この表と照らしあわせ、自分の薬がどの群に入っているのか、その群はどのような性質を持っているのかを確認してみてください。そうすることによって、病院で受ける説明よりも、より深く理解できるはずです。

キャスト(CAST)の報告

このように、多くの抗不整脈薬が開発され、ボーン・ウィリアムスにより分類が確立され、そのなかでⅠ群薬が中心的に使用されてきました。

ところが、1989年から1990年にかけて、抗不整脈薬に対するショッキングな研究報告が発表されたのです。これを「キャスト(CAST)の報告」とよんでいます。これは不整脈の治療薬について画期的な内容の報告でした。

前述したように、不整脈の治療の目的は2つありました。1つは、動悸がする、脈がとぶなどの不整脈の症状が激しく、生活の質が落ちてしまうことを治療によって改善する。もう1つは、突然死のような生命にかかわる重症な不整脈を予防する、あるいは止める、ということでした。

そのなかで、生命にかかわる重症な不整脈、特に心室細動は、心室性期外収縮が引き金になることがわかっています。したがって、心臓性突然死の80~90%は心室細動が原因ですから、心室性期外収縮を抗不整脈薬で防ぐことができれば、突然死も予防できると考えられていました。しかし、このことはまだ完全に立証されていなかった、いわば仮説の域を出ていなかったのです。

キャスト後の大規模試験

キャストはこれを立証するために次のような大規模試験を行いました。
心筋梗塞の患者を2つのグループに分けて、1つのグループには心筋梗塞のあとの心室性期外収縮に対して心室性期外収縮を抑えるⅠ群薬を投与し、もう1つのグループには偽薬を投与したのです。すると、偽薬のグループのほうが生命予後がよく、本物の心室性期外収縮を抑えるⅠ群薬を投与したグループは生命予後が悪かったという衝撃的な結果が出たのです。

この結果をどのように評価し、どのように考えたらよいのかということが、1990年に入って世界中の心臓専門医にとって大きなテーマになりました。そして次のような2つのことがわかってきたのです。

  • ①Ⅰ群薬は、心筋梗塞のような重症な病気がある人に使用すると、不整脈を防ぐというよりも、かえって致命的な不整脈を誘発してしまう催不整脈作用という副作用がある。
  • ②Ⅰ群薬のナトリウム・チャネル抑制薬は、心臓のポンプの力を弱めてしまう陰性変力作用という副作用がある。


したがって、重症な心臓病のある場合はⅠ群薬には重大な副作用が起こりうるので、長期間使用するときは、効果があるかないか、また、副作用があるかないか、常に十分な注意を払わなければならず、薬の量も調整していくことが必要です。

つまり、Ⅰ群薬は突然死を予防するというような「生命予後を改善する」という意味では限界があることがわかってきたのです。

そこで、重症な心臓疾患に合併している場合には、Ⅰ群薬よりもⅢ群薬が注目されてきました。

日本において、Ⅲ群薬ではアミオダロンという薬が使用されています。この薬は、Ⅰ群薬に比べて突然死を予防する効果がすぐれているということが、その後の大規模試験で実証されてきました。つまり、催不整脈作用や陰性変力作用も弱く、生命予後をよくする薬として、Ⅰ群薬からⅢ群薬のアミオダロンに変わってきたのです。

しかし、アミオダロンも万能薬ではありません。心臓に対しての副作用は少ないものの、肺、甲状腺、眼に強い副作用があるのです。とくに肺毒性としては間質性肺炎を起こして死に至ることもあり、日本では毒薬指定になっています。

生命予後を改善する薬として、アミオダロンは1975年にフランス、1985年にアメリカで認可されて市販されましたが、日本では先進諸国のなかでもっとも遅い1992年になってようやく保険薬として認可されたという経緯があります。

こうして心室細動を予防し、突然死を予防するという目的の抗不整脈としては、Ⅰ群薬からⅢ群薬へと歴史的な変遷をたどりました。現在では、抗不整脈薬であるアミオダロンより植込み型徐細動器(参照ページ)が突然死予防に強力な治療と位置づけられています。 しかし、徐細動器が使えない方や不整脈予防(徐細動器作動予防)には重役な薬であります。

もちろん、心臓疾患のない不整脈の場合には、いまでもⅠ群薬が第一選択になっていることは変わりありません。

ボーン・ウィリアムス分類の限界

このように突然死予防を目的とする抗不整脈薬の主流がⅠ群薬からⅢ群薬に変わってくると同時に、これまでのボーン・ウィリアムス分類についても限界があるといわれてきました。その後、シシリアン・ギャンビットにより抗不整脈薬の新しい分類法も提示されました。

それは抗不整脈薬を従来のようにⅠ群からⅣ群に分類するのではなく、それぞれの抗不整脈薬がナトリウム・チャネルにどのように作用するのか、同じようにカリウム・チャネル、カルシウム・チャネル、またレセプターにどのように作用するのかを当てはめていこうという考え方に立っています。

また薬の使い方も、いままでは経験的な使い方をしていましたが、その経験的な薬の使い方をできるだけ避けるようにしようという考え方に立っています。つまり、不整脈がなぜ起こっているのか、そのシステムをさぐり、不整脈を止めるためにはシステムのどこを抑えればよいのか、そのためにはどの薬を使えばよいのか、というように、その病態にあわせた科学的な薬の選択をしていこうという流れに変わってきました。そして現在ではその薬が実際に有効であるかどうかを大規模試験で実証していくというエビデンス重視の考え方になってきています。

こうして「キャストの報告」以降、不整脈の治療については、次のように大きく考え方が変化しています。

  • ①QOLの改善と同様に生命予後の改善を治療の中心に
  • ②生命予後の改善にはⅠ群薬からⅢ群薬へ
  • ③ボーン・ウィリアムス分類からシシリアン・ギャンビットの分類へ、そしてエビテンスへ
  • ④抗不整脈薬の使い方は「さじかげん」から病態にあわせた「科学的な」使い方へ


このように薬物療法は、キャストの大規模試験以降、薬の安全かつ有効な投与計画などの臨床薬理学の進歩とともに、この10年で大きく変わってきたことがおわかりいただけたと思います。

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