心停止は心臓から血液がまったく送り出されない状態です。心臓から血液がまったく送り出されませんから、5~10秒くらいでめまいが起こり、10~15秒ぐらいになると失神発作が起こります。その状態が2~3分続けば、脳の細胞は元に戻らない状態になってしまいます。そこで突然に死んだ状態になってしまうのです。こうした状態は突然死のなかでも「瞬間死」とよばれています。
この心停止には2種類あります。
1つは「心室細動」(書籍127p)です。心室がけいれん状態を引き起こすと、心臓の収縮や拡張の機能が失われるため、血液がまったく送り出されなくなります。
もう1つは「心室静止」といって、心室がまったく動かなくなる、けいれんではなく静止状態になってしまうものです。これは洞結節からの命令が伝わらないことによって起こります。洞結節で命令が出ない場合は、他の刺激伝導系の場所から洞結節に代わる命令が出るはずですが、それも出ない状態になります。そうなると「洞不全症候群」(書籍171p)や「完全房室ブロック」(書籍176p)などで心室停止が起こります。
このように、心停止は突然死を引き起こします。いまアメリカで心臓に原因のある突然死(心臓性突然死)は1年間に30~40万人前後といわれています。その直接の原因のうち、80~90%は「心室細動」です。他の10~20%前後が「心室静止」といわれています。したがって心臓突然死の多くは「心室細動」で起こるというように考えられています。
その原因となる心臓病としては、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)がもっとも多く、発作が心停止の直接の引き金になるのは20~30%と考えられています。
日本は欧米に比べてデータが少ないのですが、心臓性突然死は5~7万人と推定されています。突然死のときに偶然記録されたホルター心電図でも心室細動が約70%です。
心室細動の早期発見と早期治療、そしてその予防ということは医学的な課題であるだけでなく、社会的にも大きな課題といえます。そして、それが突然死予防につながることはいうまでもありません。
「心室性期外収縮」(書籍110p)は頻度の高いもので、ほとんどは放置してよいものです。しかし心室性期外収縮のなかに、ごくまれに突然死やその引き金となる心室細動や心室頻拍を引き起こす心室性期外収縮があります。それを「悪性心室性期外収縮」とよぶことがあります。
以上の解説で、「こわい不整脈」と「こわくない不整脈」の判別については、いちおうご理解いただけたと思います。しかし、専門的な立場からいえば、こわい不整脈とそうでないものの境目をどのように判断するかは、大変むずかしい問題です。
同じような重症の不整脈でも、重症の程度は個人によって大きく異なります。たとえば、どういう症状があるのか、基礎心疾患があるかどうか、心機能はどうかなどで大きな違いが出てきます。
とくに、もっとも多くみられる不整脈である「心室性期外収縮」は、単純にこわいとかこわくないといった判断がとてもむずかしいのです。